大興寺への道、杖を突きながら歩いていると、杖に付けた鈴の音を聴いて、家の
中から「おへんろさ〜ん!」と声を掛けてくるおばさんがいた。
「お接待です」と、オロナミンCを手渡してくださった。少し立ち話をすると、
息子さんは東京の大学を出たということで、私が東京から来たことに親近感を感じ
たようだった。
「大興寺さんで今、60年に1度の秘仏が公開されてますよ。是非見てください。」
そんな情報を笑顔で教えてくれた。
弘法大師(空海)一刀三禮の作と伝えられる、本尊薬師如来像、脇仏不動明王・
毘沙門天の秘仏をじっくりと見た。力強い雰囲気を感じる。
薬師如来は正式には「薬師瑠璃光如来」といわれ、来世の平穏を司る西方極楽浄
土の「阿弥陀仏如来」に対し、現世の抜苦与楽を司る「東方浄瑠璃世界の教主」と
されている。
空海によって日本にもたらされた密教は、もともと現実をいかに生きるかがテー
マで、空海の思想で大切なことのひとつは「存在論」。
「生きているということはどういうことか」「いかに生きるべきか」若い頃から
おぼろげに問い続けていることを、歩きながら今も考える。
秘仏を見終わった老女性二人連れと「60年後にまたここで会いましょう」と冗談
を交わし、寺の近くの宿へ向かった。